アンナミラーズの歴史(3)

公式戦未勝利のまま迎えた3年目のシーズン。

どうも主務の言ってることは違うんじゃないか。
勝てないし、モテないし。
女の子もやってるから楽勝って話だったけど、真夏に砂浜の上を走りまわるってけっこうツラくないか、ってことがバレはじめたこの年、夏を前にして数名がチームを去ることになる。


かわりに、入社したばかりの新入社員2名を含む若手数名がチームに加わり、平均年齢がグッと下がった。
部員のプライオリティーは、練習後の飲み会より練習そのものに重きをおくようになっていった。いまさらの感はあるが。
平日の夜、新宿中央公園の月明かりの下、試合に向けた練習は熱を帯びた。
アタック&ディフェンスでは、膝の靱帯を伸ばす者、肩を脱臼する者まで現れた。タックルがないから安全っていうのを売り物にしてるっていうのに。ラグビーじゃねぇっつうの。(ちなみに外れた関節をはめるのも主務の仕事)
この年加わった若手はラグビー経験こそなかったが、硬式野球部、サッカー部等の出身者でひじょうに運動能力が高かった。
彼らに対し、主務が技術と理論を落とし込み、関西出身の武闘派清原(仮名)が気合いを注入した。
2人のラグビー経験者が引っ張る若返ったチームは急成長を遂げているように見えた。


平塚での練習試合も数多くこなした。本チャンのラグビー部チームにはさすがに歯が立たなかったが、ラグビー未経験者が入っているようなチームとは互角に渡り合えた。
誰が先発メンバーでいくんだ、というようなちょっとしたチーム内の競争意識のようなものまで出てきた。
明らかに去年までとは違うチームになっている。
今年は勝てるんじゃないか。


昨年までのような試合当日だけの助っ人は抜きで、数か月間一緒に練習してきたメンバーだけで臨んだ第4回関東大会。
メンバーは現実がそう甘くないことを思い知らされる。
惜敗・・・。


収穫はあった。前年までのように、手も足も出ないという感じはなかった。
それなりに準備すれば、いい試合できるじゃん。サインプレー「ナタデココ」は不発だったけど。
とりあえず、やってきたことは出せたし、あとはシャワーを浴びて、平塚の駅前で「お疲れさん、また来年の夏がんばろー」とか言いながら飲んで、明日からは何事もなかったかのようにサラリーマンとしての日常に戻ってゆく。まぁ、みんなよく頑張ったよ。
と思ったのは主務だけだったらしい。


試合直後
今年から参加したメンバーは茫然としていた。
目を充血させたマリリン(仮名)は頭を抱えていた。
潤一(仮名)はいつまでも試合の行われていたコートを見つめていた。
そして、その眼には光るものが・・・。


えっ?
主務の意図しないところで、このチームは階段を一段上ったらしい。
この日、潮風が強く吹いていた。